丸又商店(愛知県知多郡武豊町)

東海地方伝統の「たまり」醤油
毎日のお料理に欠かせない醤油。食欲をそそる色、塩味の奥に広がる旨み、お醤油を塗った焼きおむすびの香り…たまりませんね。みなさんがふだんお使いなのは、たぶん関東で発達した「濃口醤油」ですが、日本各地に風土や好みに根差した醤油があります。関西で生まれた「淡口」、山口県発祥の「再仕込み」、愛知県碧南市の「白醤油」、そして今回ご紹介する東海地方の「溜(たまり)」です。たまりは豆味噌を造る過程で“溜まって”にじみ出た液を取り出したのが始まりだといわれています。豆味噌文化のある東海地方、特に知多半島の武豊町は昭和初期には50軒もの醤油蔵がありました。その中でも、丸又商店は創業文政12年(1829年)の歴史ある蔵元です。柱も梁も蔵付き酵母で白くなった木造の仕込み蔵に杉の木桶を置き、伝統的な製法で「たまり」を造っています。

1年半熟成、桶底からしたたる液体を集める
一般的な濃口醤油は、主原料として大豆と小麦を半分ずつ使用しますが、たまり醤油はほとんどが大豆です。大豆に含まれるタンパク質が分解されて旨味の元になるので、たまり醤油は旨味成分が非常に高くなります。少量の小麦を使用する製法もありますが、「オーガニックたまり醤油」は小麦を全く使用しない大豆100%です。造り方は、途中まで豆味噌と似ています。まず大豆を蒸して潰し、玉状(味噌玉)にしたもので麹を作ります。玉の内部に乳酸菌が増殖したら、杉桶に大豆麹と塩水を仕込みます。このとき仕込み塩水の量が非常に少ないのも、たまり造りの特徴です。仕込みが終わったら重石をのせ、杉桶の底に溜まる液体を上の方まであげ、大豆麹にひしゃくで掛けもどす「汲みかけ」をして、桶の中を対流させます。汲みかけしながら、天然醸造で発酵熟成すること1年半。最初は硬い味噌のようだったもろみが、とろりとまろやかに育ったら、いよいよ「底引き」です。杉桶の底の吞み口(コック)を開き、桶底からしたたる濃厚な液体を集めるのです。底引きは非常に贅沢な方法ですが、圧搾しないぶん雑味がなく、透き通った美しい赤みのたまりが採れます。集めたたまりを火入れ(加熱殺菌)して完成です。

大豆100%、グルテンフリーでも注目
大豆だけで造った「オーガニックたまり醤油」は旨味成分が多く、濃厚な味です。深くコクのある味わいは海外でも高く評価され、世界の料理人から「ORGANIC TAMARI」として引く手あまた。グルテンフリー志向の高まりもあって、仕込み量のじつに9割が欧米へ輸出されています。この素晴らしくおいしいたまり醤油を、日本の私たちがスルーしていたら、あまりにもったいない!ので、今回改めてご紹介しました。仕込みから底引きまで1年半、そして桶底からしたたる量だけの希少品。この機会にお試しください。

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