<社会貢献の事業を継いで>
かつてムソーで扱っていた「白菊しょうゆ」を覚えていますか。大豆や醤油を使わず、米だけで造られた醤油で、アレルギーに悩むご家庭を支えていましたが、白菊酒造(岡山県高梁市)の設備の老朽化などから2017年に製造中止。ムソーも後継商品を見つけられず、月日が経ちました。その頃、白菊しょうゆの存在を知り、技術の継承を決意した醤油職人がいました。大正屋醤油店の四代目となる山本周作さん(43才)です。いくつかの醤油蔵が手を挙げた中で「中小企業でこそできる社会貢献がしたい」という彼の熱意に押され、白菊酒造は大正屋醤油店に製造方法を伝授。そこから山本さんは独自技術の開発に取り組み、アレルギー対応の専用工場も入手。2020年8月、念願の「米から造った純米しょうゆ」が発売されました。
<酒粕と米で仕込む醤油>
大正屋醤油店は1926年創業。地元産の大豆にこだわり、昔ながらの杉桶で醤油を仕込んでいます。米しょうゆの開発は本店で2010年から始めました。開発から試行錯誤を繰り返し、2017年には白菊酒造から30年以上培った技術を伝承し、ついに完成しました。さらに現在も、醤油の色、味、香りをもっと高めたい、ともろみ作りに磨きをかけています。
原材料は酒粕・米・食塩だけです。ここでいう米は酒造りの精米過程で生じる米粉(白ぬか)のこと。酒粕と米粉は、「月山」の銘柄で知られる地元の吉田酒造(安来市広瀬町)から購入しています。
酒粕と白ぬかを混合乾燥し、醤油麹菌をつけて室(むろ)に入れ、温度と湿度を管理して麹(こうじ)にします。「基本は麹づくり。一般の醤油の旨みをつくる大豆の役割をアミノ酸豊富な酒粕が、甘みや香りをつくる小麦の役割を白ぬかが果たしますが、このバランスが難しい」。3日かけてつくった麹を塩水に入れて仕込み、天然醸造で1年半かけて発酵熟成。できた「もろみ」を搾って加熱殺菌・濾過して完成です。「醤油」と名乗るには大豆を使うのが条件とJAS法で決まっているので、この品は「しょうゆ風調味料」です。でもなめてみると色も味も香りも一般の醤油と遜色なく、米から造ったとは思えない感動があります。
<グルテンフリーでも注目>
発売直後から、大豆アレルギーや小麦アレルギーがある方やその家族から「家族で同じものを食べられる」と感謝の声が寄せられました。白菊酒造の会長ご夫妻も喜んでくださった由。純米しょうゆは、令和2年度優良ふるさと食品中央コンクールの新技術開発部門で農林水産大臣賞を受賞。一般の醤油と遜色ないおいしさと、これまで捨てられていた酒粕を地元の酒蔵から仕入れて使っている点が評価されました。
「試食販売で購入されるのは①大豆アレルギー、小麦アレルギーの方②グルテンフリー志向の方、そして③ちょっと変わったお醤油に興味のある方。若い女性が“卵かけごはんによさそうね”と喜んで買っていかれます。時代は変わっていますね」と、大正屋醤油店の営業・森山博己さん。ぜひお試しください。