戸田理平商店(愛知県豊川市為当町)

環境にやさしい無酸処理
江戸末期に始まった愛知の海苔養殖。伊勢湾・三河湾の広大な浅海干潟を活かして県下の沿岸域に広がり、現在は知多、西三河、東三河の3エリアで生産しています。その中でも西三河産の海苔は、矢作川から三河湾へ流れ込む栄養と陽光に恵まれて味の評価が高く、贈答用に好まれます。「西三河産の海苔は口の中で抜群のうまみ・香りが広がり、旬なものは口溶けも素晴らしく、舌の上でじゅわっと味わいを残しながらほどけていきます。世界トップレベルの味わいだと思います」と戸田理平商店の戸田国良さん(42歳)。さらに特筆すべきことに、西三河の海苔養殖は基本的に酸処理(※)をしないのです。“人と地球に優しい海苔屋”を目指す戸田理平商店は、この貴重な西三河産の無酸処理海苔を積極的に仕入れて加工しています。

※酸処理…主に病気予防のために、海苔を養殖網ごとクエン酸などが含まれた酸処理剤に漬ける作業

陽光を浴びる「支柱式」
一般に多い養殖は、浮きをつけ、網を張った養殖イカダを海中に固定する「浮き流し式」です。潮が引いても網が海中にあるので育つのが早く、深い場所でもできるので漁場を選ばない利点があります。西三河は、海の中に支柱を立てて浅く網を張る昔ながらの「支柱式」。1日2回の干潮時には海中から海苔が顔を出し、太陽の光をたっぷり浴びます。大変手間がかかりますが、うまみのある海苔が育ちます。さらに日光を浴びるおかげで病気が出にくく、酸処理せずに済むのです。12月から4月まで夜明け前に網から生海苔を摘み、真水を加えてミンチにし、板状にして水切り・温風乾燥して「板海苔」に加工し、漁協に納品するまでが漁師さんの仕事です。

うまみ・口溶けを吟味して買い入れる
各協が出品した無酸処理の板海苔を、戸田さんが目利きして入札します。「味や香りは等級だけでは判断できないので、見付場で板海苔をあぶって試食し、うまみ・口溶けがいいものを選んで買い入れます」とのこと。2024年の秋は海水温がなかなか下がらず、漁場に網を張る時期が遅れて不作となりました。「温暖化の影響もありますが、海苔の成長に必要な栄養が海に流れ込まないのは、河口堰など人間が余計なことをしたせいもある。日本古来の海の幸を後世に繋げるために、業界をこえて勉強会を開いています」。

磯の香りいっぱいの乾海苔
こうして仕入れた板海苔を、熱風で火入れ乾燥した商品が「乾海苔(ほしのり)」。乾海苔を、さらに赤外線で焼加工してカットしたのが焼海苔の「極上おむすびのり」「きざみのり」です。40年ほど前までは家庭用も贈答用も乾海苔が当たり前でしたが、今は手軽な焼海苔が主流。戸田理平商店が乾海苔を扱い続けるのは、乾海苔は焼海苔よりも水分量が多く、磯の香りをより感じられるからです。「乾海苔をそのまま食べると、海から来たんだなぁ、と胸が熱くなります」。  もちろん軽く炙って焼海苔にもできます。炙りたてのホカホカをパリパリ折って、お醤油をちょっとつけてご飯に巻いて。昔ながらの食べ方、お試しください

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