天栄食品(熊本県天草市魚貫町)

~雑節の新たな可能性を切り拓く~
熊本県天草諸島・下島の最南端に位置する牛深町は、きれいな海と新鮮でおいしい魚が有名な町です。その海で獲れる魚を使用して作る「雑節(ざつぶし)」は日本一の生産量を誇ります。

雑節とは、かつお節以外の節の総称です。高品質な牛深の雑節は出汁原料として食品業界で高く評価されていますが、一般消費者の認知度は低いのです。この現状を憂い、立ち上がったのが津田拓司さん(33歳)です。2018年、26歳の若さで加工会社「天栄食品」を設立しました。

「雑節そのものの認知度を上げるには、家庭で手軽に楽しめる加工品が必要だ」。業務用中心だった雑節の世界で、津田さんが最初に手掛けたのが「削りぶし」です。原料には父親の津田満さん(70歳)が製造する完全天日干しむろあじの煮干しを選びました。「牛深には20社ほど雑節メーカーがあり、父の津田水産も30年以上製造しています。大手メーカーの黒子役に甘んじず、最終加工まで一貫して手掛けるのが親父の夢だったかも知れません」。

~原料は天日干しのアジ煮干し、燻製サバ節~
原料の雑節は主に津田水産から仕入れます。まず、九州管内の漁港で水揚げされたむろあじとさばを洗い、海水で煮沸。「うちの雑節は牛深のきれいな海水で炊くことでミネラルも豊富になり、非常においしくなります(満さん談)」。

次に、むろあじは外気温の低い冬場に1~2ヵ月も天日干しして、魚本来の旨味がぎゅっと熟成された真っ白できれいな身をした煮干しにします。「機械乾燥と比べて繊維が壊れないから、いい削りになるんだよ(満さん談)」。さばは乾燥させた後、天草産の薪で12時間ほどじっくり燻製。生臭さが消え、燻製特有の香ばしい香りが味わえるさば節にします。

~超極薄、ふわふわの削りぶしに~
ここから先が天栄食品の仕事。煮干しと節を蒸してから、骨や内臓を一匹一匹手作業で取り除きます(骨抜き)。「ふつう雑節は骨抜きしませんが、雑味なく色味も美しく仕上げたいので」。削りやすいよう軽く焼いてから、特殊な機械で超極薄0.01mmに削ります。
「そもそも牛深の他社で極薄のサバ削りぶしを初めて味見した時、口の中で溶けるような味わいに驚いて、なぜ?薄さだ!これをやりたい!と起業したのです」。研究を重ね、極限の薄さ0.01mmに削ることで、他では味わえないふわふわでなめらかな食感と、雑節本来の豊かな風味を引き出しました。

「極薄に削れるのは原料の節が上質な証拠です。脂がのってない原魚を選び、きれいに乾いてなければ、削れずに粉になっちゃう」「機械から極薄の削りぶしが一枚一枚、花のように出てくる…この美しさを知らない人はかわいそう」「削りの際に出る粉をふるうメッシュも粗め粗めに。製品に粉を残したくないから」と、ひたすらこだわる津田代表。削りぶしオタクと呼びたい熱量です。

天草で買った削りぶしを首都圏や関西でも買いたい、という問い合わせにこれまで応えられませんでしたが、ムソーが販路を拡大することで課題解決に貢献できそうです。全国区を目指す牛深の雑節ふわふわ削りぶし、おすすめです。

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