山名酒造(兵庫県丹波市市島町)

氷上の風土を活かした地酒
袋を開けた瞬間に馥郁たる酒の香り。そのまま小指の先ほど口にすると、ふくよかな旨味が広がります。家紋と思しき扇を背景に「自然酒 酒粕」、そして有機JASマーク。この品が世に出るまでのお話です。山名酒造は創業江戸享保元年(1716年)、蔵は日本の原風景のような山間の地にあります。朝夕の寒暖差が深い霧を産み、黒大豆や山の芋、米作りに最適の土壌。地元の農家が丹精した酒米と回廊を伏流する豊かな仕込み水を原料に、氷上の風土を活かした地酒を三百余年、醸してきました。十二代目蔵元の山名洋一朗さんは2020年に30歳で家業を継ぎました。先代の純吾さんは有機の里と呼ばれる地元で意欲ある農家と協力し、有機栽培米や自然農法米による酒造りを始めた人です。「父が大切にしてきたお米への思いを受け継ぎつつ、僕は新しいことを始めました」。

江戸時代の酒造りに想いをはせて
新しいこととは、より昔ながらの酒造りです。酒母仕込みの際に乳酸菌を添加せず、蔵内の乳酸菌を活用する江戸時代の醸造法「生酛造り」を、周囲の猛反対を受けつつ2019年にスタート。「生酛造りは丹波杜氏が確立した技。地元で残すべき文化ですから」。2021年には、日本に残る唯一の大桶屋に新桶を4本製作してもらい、蔵として半世紀以上ぶりに木桶仕込みを復活しました。生酛酒母を木桶で仕込み、酵母を添加せず蔵内の菌を活かして醸したお酒の銘柄は「千歳(せんさい)」。創業より幕末まで造られた銘柄を復刻しました。

「有機 自然酒 酒粕」誕生
新しいことがもうひとつ。酒類に有機JASマークの表示ができるようになった法改正を機に2024年6月、山名酒造は有機加工食品のJAS認証を取得しました。先代から引き継いだ4名の契約農家の有機酒米を原料に生酛造りで仕込んだお酒が、昨冬デビュー即完売した「奥丹波 有機純米酒」と、20年以上続けている有機純米酒「奥丹波 自然酒シリーズ」です。これらのオーガニック日本酒のもろみを搾ったとき、酒袋に残るのが「有機 自然酒 酒粕」です。伝統的な槽搾りから近代的なヤブタ式に変えましたが、「0℃の環境で搾るので、お酒も酒粕もフレッシュ感が増しました。ヤブタでも弱い圧力で搾りますから、お酒の成分がたっぷり残っています」。昨冬に搾り、大切に冷凍保存した希少品です。酒粕のおいしさに一驚した方は山名酒造のHPを要チェック。Made in Tambaのお酒がお待ちしています。

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